申告期限までに遺産分割がまとまらない場合
Q.遺産分割協議がまとまらない場合、相続税の申告や納税にどのような影響がありますか?
父が亡くなって3ヶ月が経ちました。父の遺産について相続人間で意見が分かれ、すぐには分割が見込めそうにありません。
このまま遺産分割ができない場合、相続税の申告や納税にどのような影響がありますか?
A-1.ワンポイント・アドバイス
相続税の申告及び納税には期限が定められており、遺産分割がまとまらなくても、そのことを理由に期限を延長することはできません。
申告期限までに遺産分割協議が成立しない場合には、各相続人が未分割の遺産を法定相続分に従って相続したものとみなして、相続税の計算をすることになります。
また、相続税には税の軽減特例や納税に関する特例がいくつか設けられていますが、これらの特例は、遺産分割協議で財産の取得者が決まっていない場合には適用を受けることができません。
このように、遺産分割協議の不調は、遺産による納税ができないだけでなく、納税額も多額になってしまい、期限までの納税をさらに困難にしてしまいます。
遺産分割協議には法律上の期限はありませんが、相続税が課税される可能性のある方は、10ヶ月という申告期限を意識して手続きを進めましょう。
将来の相続の際に遺産分割協議がまとまらないと予想される場合には、遺言書を作成しておくことにより、このような事態を避けることができます。
遺されるご家族のために、生前からできる対策を講じておくことも大切でしょう。
A-2.詳細解説
1.相続税の申告・納付期限
相続税の申告期限は、相続の開始があったことを知った日(通常は亡くなった日)から10ヶ月以内であり、納期限も同日とされています。災害その他やむを得ない事情(新型コロナウイルス感染症の影響を受けた場合も含む)があり、10ヶ月以内に申告及び納税ができない場合には、税務署に申請することで期限を延長することができますが、「遺産分割協議が成立しない」という理由は、災害その他やむを得ない事情には該当せず、申告期限は延長できません。
申告期限までに申告・納税ができなかった場合には、本税に加えて無申告加算税や延滞税などのペナルティが科されますので注意してください。
2.申告期限までに遺産分割協議が成立しない場合の相続税の計算方法
申告期限までに遺産分割協議が成立しない場合には、各相続人が未分割の遺産を、民法に定める法定相続分に従って相続したものとみなして、相続税を計算し、納付することとされています。
この場合、配偶者に対する相続税額の軽減特例や、小規模宅地等に係る評価減などの税の恩典を受けることはできません。
申告期限までに遺産分割協議が成立しなかった場合に適用を受けられない相続税の特例には、次のようなものがあります。
①配偶者に対する相続税額の軽減
配偶者が相続した財産のうち、配偶者の法定相続分又は1億6千万円のいずれか多い金額までは相続税が課税されません。
② 小規模宅地の評価減
一定の要件を満たした相続人が被相続人の事業用宅地(貸付用を含む)又は居住用の宅地等を相続した場合には、一定の面積を限度としてその宅地等の評価額が50%又は80%減額されます。
③相続税の納税猶予
一定の要件を満たした相続人が農地、山林、自社株を相続した場合には、これらに財産に係る相続税額の納税の猶予が認められる場合があります。
④物納
相続税の納付につき金銭で納付することが困難で、延納してもなお納税が困難な場合、有価証券や不動産等の財産で相続税を納付することができます。